貸倒損失と書面
おはようございます!
税理士の松嶋と申します。
本メルマガは、皆様が怖い怖い
とおっしゃる税務調査に対し、
勇気をもって戦えるノウハウを
解説しております。
私のパートは【毎週木曜日】です。
税務調査について分かりやすく
解説していきます。
それでは、第三百八十一回目。
テーマは、
「貸倒損失と書面」
です。
売掛金の回収が不可能である場合などに
認められる貸倒損失について、税務調査では
非常に厳しい対応がなされます。
問題になる「回収が不可能」という
解釈について、税務署は非常に厳しく、
少しでも回収見込みがあるのなら貸倒損失を
原則として認めないからです。
このような事情を踏まえ、
税理士向けのノウハウとして、
貸倒損失を認めさせる書面セット
といった商材を販売している会社があります。
この書面があれば税務調査も安心と謳っている
訳ですが、貸倒損失は原則として書面で
決まらないので、はっきり無意味です。
税務上のルールを確認しますが、貸倒損失は、
① 会社更生法などの法律で債権が強制的に
切り捨てられる場合などに認められる
「法律上の貸倒れ」
② 売掛金などの一定の債権について1年以上
取引がない場合に認められる
「形式上の貸倒れ」
③ 債権の回収が不可能であると
判断できる場合に認められる
「事実上の貸倒れ」
の3つからなります。
このうち、①は要件に該当すれば原則として
無条件に認められますし、②は
1年以上取引なし、というシンプルな要件で
認められますので、書面の有無は基本的に
関係ありません。
加えて、最後の③は回収不能かどうかの判断が
問題になりますが、それは書面といった
形式というよりもむしろ、
債権回収の努力はどうだったのか
債務者の現状の資産状況はどうなのか
といった実質判断が重要です。
督促や債務者の財産に対する調査などもろくに
行っていなければ、内部で作った稟議書のような
書類で、「この債務者に支払能力はないと
判断できるため、貸倒れとして処理をする」と
形式だけ揃えても、税務署は全く納得しません。
こういう訳で、書類を揃える実益は大きくなく、
高値で「貸倒損失を認めさせる書面セット」を
購入する実益は全くないと思われます。
貸倒損失の話だけではありませんが、税務署の
実態や税務調査実務が分からない税理士は、
書面揃えればグレーな取引でも税務調査は
大丈夫と勘違いしがちなので注意が必要です。
まずやるべきは、実質を整えることなのです。
なお、矛盾するように聞こえるかも
知れませんが、貸倒損失の中でも書面が
決定的に重要な場合があります。
それは、債権放棄をする場合です。
債権放棄については、国税のルールで必ず
「債権放棄の通知を書面で送る必要がある」
とされており、口頭で債務免除の旨を
伝えたものの、書面を送っていないという理由で
貸倒損失が認められなかった事例もあります。
ただし、この債権放棄の通知の書面については、
インターネットに無料でひな形が掲載されて
いますので、それを使えばまず問題ないでしょう。
こういう意味からも、高い料金を支払って
不必要な書面セットを購入する実益は100%ありません。