Column/コラム

「明確化」という名の遡及課税

「明確化」という名の遡及課税

おはようございます!
税理士の松嶋と申します。

本メルマガは、皆様が怖い怖い
とおっしゃる税務調査に対し、
勇気をもって戦えるノウハウを
解説しております。

私のパートは【毎週木曜日】です。

税務調査について分かりやすく
解説していきます。

それでは、第四百四十三回目。

テーマは、

「「明確化」という名の遡及課税」

です。

遡ること令和4年度税制改正において、

クロスボーダーで行うデリバティブ取引の決済に係
る所得(デリバティブ所得)について、取扱いを明
確化する

という改正がなされました。

この改正の意味ですが、

1 日本に住所がない非居住者の方が

2 日本の市場のデリバティブ取引、具体的には先
物取引やオプション取引などを利用してお金を稼い
だ場合

3 原則として日本では課税しない

という取扱いを法令上「明確化」するというもので
した。

従来、税務署は、非居住者の方が日本市場の先物取
引などでお金を稼いだ場合、日本の所得(国内源泉
所得)に該当するとして、税金を課税していまし
た。

非居住者の方は日本に住所がないため、一部日本の
課税を緩めることとされており、日本ではすべての
所得に課税されるのではなく、国内源泉所得にのみ
課税されます。

このため、国内源泉所得に当たるかが問題になりま
すが、日本市場のデリバティブ取引については、
「契約上の地位」が日本にあるため国内源泉所得に
該当する、という理屈で税務署は課税をしてきまし
た。

実際、更に遡ること平成31年の裁決事例において
は、この理屈による非居住者に対する課税が合法と
されていました。

しかし、この裁決の結論も真逆にして、課税しない
と「明確化」するという改正が実現した訳で、令和
4年度改正が行われた当時は大きな話題になったも
のでした。

なお、先の裁決事例で負けた非居住者の方は、地裁
でこの税務署の理屈はおかしいとして、争っていた
状況でした。

しかし、この改正を受けて、税務署は自ら負けを認
めて訴訟を取り下げたようです。どんな状況でも決
して妥協しない、税務署という組織からすれば、ま
さに異例の状況でした。

通常、「改正」とは将来に向けて行うものですが、
今回は今まで当然課税されないものを「明確化」す
る、というものですから、遡って取扱いが変わる、
ということになります。

結果として、過去の年度でデリバティブ所得を申告
し納税していた非居住者の方についても、更正の請
求により所得税を還付することが国税庁のホームペ
ージで示されました。

これだけ聞くと、遡って納税者有利になるのであり
がたい、と思うかもしれませんが、実は本改正によ
り、過去に遡っての課税、すなわち遡及課税も生じ
ます。

この理由は、非居住者が行う、日本市場のデリバテ
ィブ所得が国内源泉所得にならないということは、
その逆もしかりだからです。

具体的には、「居住者」が「国外市場」で行うデリ
バティブ所得は国外源泉所得にならないことを意味
することになります。

国内に住所がある居住者の方は、全世界の所得に対
して課税されます。このため、外国で課される税金
についても日本で課税されることになります。

その二重課税を避けるために、例えば外国からもら
う配当について、その国で源泉徴収された税額につ
いては、外国税額控除という税額控除が認められま
す。

詳細は割愛しますが、この外国税額控除の計算上、
国外源泉所得が大きい場合には、多額の控除を受け
ることができ有利になります。

従来、居住者の国外市場のデリバティブ所得は国外
源泉所得と国税当局は判断していた訳ですが、今回
の改正を受けて国外源泉所得にならないと過去に遡
って「明確化」されることになります。

結果として、外国税額控除が減る居住者も発生する
訳で、該当する方は修正申告をして税金を支払うよ
う、これまた国税庁のホームページで示されていま
す。

ここで重要なことは、遡及課税は絶対に許されない
ということです。

何をするにも税金は必ず検討しますので、今まで課
税されないというルールだったのが、いきなり過去
に遡って課税されるとなると、遡って税金を取られ
ることになり大変な事態になるからです。

となると、この改正は遡及課税に当たる可能性が大
きいので、「明確化」と片付けず、課税しないよう
税務署は当然処理を改めるべきと考えます。

この点、現状問題視されていないので困るのです
が。