Column/コラム

大口株主の改正には穴が多い

大口株主の改正には穴が多い

おはようございます!
税理士の松嶋と申します。

本メルマガは、皆様が怖い怖い
とおっしゃる税務調査に対し、
勇気をもって戦えるノウハウを
解説しております。

私のパートは【毎週木曜日】です。

税務調査について分かりやすく
解説していきます。

それでは、第四百三十六回目。

テーマは、

「大口株主の改正には穴が多い」

です。

税務署に対し、会計検査院から厳しい指摘があった
ため、令和4年度改正においては、「大口株主の要件
の見直し」という改正がなされました。

大口株主とは持株割合が3%以上の個人株主を言い
ます。

上場株式の配当は、原則として、税率が安くなる分
離課税で課税されます。しかし、大口株主が受ける
ものは、分離課税ではなく総合課税で課税されるこ
とになります。

総合課税であれば累進課税の影響を受けることにな
り、所得が大きい納税者は分離課税の税率よりも高
い税率で課税されますので、大口株主になると課税
上不利な状況になることが通例です。

この大口株主にならないようにするため、実務にお
いては自分の資産管理会社に一部株を持たせる、と
いう仕組みが使われていました。

あくまでも、個人株主が3%以上持つ場合が本制度
の対象ですから、個人で持っている上場株式を資産
管理会社に譲渡し、自己の持株割合が3%未満とな
るようにすれば、それだけで大口株主の要件から外
れた、という訳です。

会計検査院はこのような安易な制度逃れを問題視し
たため、令和4年度改正では、自分の上場株式の保
有数と、オーナーである同族会社の保有数を合わせ、
持株割合が3%以上となるときは、大口株主に該当
するという改正がなされることになりました。

こうすれば、安易に大口株主から逃げられることは
ないという理解なのでしょうが、実際のところこの
改正には致命的な抜け道があり、もっと真剣に制度
を作る必要があったと考えられます。

といいますのも、自分が支配する同族「会社」と合
わせて持株割合を判定するため、会社でない法人、
例えば一般社団法人を使い、自分の持株割合を3%
未満とするような形で一般社団法人に上場株式を持
たせれば、それだけで大口株主から逃れることがで
きると考えられるからです。

一般社団法人を利用すると、多額の相続税が節税で
きたことから、数年前に一般社団法人に係る相続税
の仕組みを厳しくする改正が実現しています。

このような歴史を踏まえれば、本改正についても一
般社団法人を活用することで節税されるリスクがあ
ることを、法律を作る財務省主税局は把握できたは
ずで、何故このような抜け道をふさがなかったか理
解に苦しみます。

とりわけ、相続税の節税は制限されたとはいえ、現
状においても資産家の資産管理法人として一般社団
法人は多く利用されています。

となると、大口株主になりうるような、資産家の上
場株式の管理は、むしろ一般社団法人を使って行う
ことの方が多いようにも思われ、この点からも一般
社団法人を対象外とした理由は全く分かりません。

財務省主税局としては、法改正をしたという外形さ
え作れば、面倒な会計検査院に対する責任を果たし
た、と考えているのかもしれません。

このような抜け穴の大きな改正については、近いう
ちにそれを防ぐためにまた改正が行われると考えら
れます。

中身のない改正に振り回されるのは納税者なので、
立案者はもっと突っ込んだ検討をすべきでしょう。