Column/コラム

無償返還の届出を出していない場合の相続税申告

無償返還の届出を出していない場合の相続税申告

無償返還の届出を出していない場合の相続税申告

おはようございます!
税理士の松嶋と申します。

本メルマガは、皆様が怖い怖い
とおっしゃる税務調査に対し、
勇気をもって戦えるノウハウを
解説しております。

私のパートは【毎週木曜日】です。

税務調査について分かりやすく
解説していきます。

それでは、第三百六十八回目。

テーマは、

「無償返還の届出を出していない場合の相続税申告」

です。

土地の賃貸借により借地権を設定した場合、
原則として

貸主は土地の一部を借主に譲渡した

とされ、譲渡所得の課税問題が生じます。

しかし、この借地権の課税については、
「無償返還の届出」を税務署に提出することで
原則として回避することができます。

このため、例えば社長の土地を会社が借りて
建物を建てるといった場合、借地権の課税を
避けるために、会社は社長と連名で
無償返還の届出を提出することになります。

この取扱いは常識なのですが、実務では
無償返還の届出が提出されていないことが
多くあります。この理由として、

所得税や法人税の国税の担当者が、
借地権について基本知らない

ので借地権の課税についてそれほど
厳しくないことはもちろん、

最悪国税から問題視されたとしても、
そのタイミングで無償返還の届出を提出すれば
問題ないとされていること

などが挙げられます。

このため、法人税や所得税は無償返還の届出を
出していなくともあまり問題にならないのですが、
相続税においては疑問が生じます。

相続税の計算上、借地権が関係する
土地の評価は、無償返還の届出が出ている場合と
そうでない場合とで大きく異なるからです。

具体例を挙げて説明しますと、上記の
例のように、社長が土地を自社に貸していた
場合で、社長に相続が発生したとします。
社長と会社は後日提出でもOKなので
無償返還の届出を出していないだけですが、
この場合、社長の土地は無償返還の届出を
出しているとして評価するのか、若しくは
無償返還の届出を出していないとして
評価するのか疑問が生じます。

結論から申し上げますと、後者で評価する
とされています。しかし、そうなると
法人税や所得税は無償返還を出すという前提で
経理処理をしていますから、無償返還の届出を
出しているという法人税や所得税と、
無償返還の届出を出していないとされる
相続税の取扱いに矛盾が生じます。

このため混乱する訳ですが、このような矛盾が
生じたとしても、所得に対して課税される法人税や
所得税と、相続財産について課税される相続税は
種類の違う税金ですから、取扱いが変わっても
問題ないという整理になります。

このようなことを申し上げると、相続税の取扱い
として、無償返還の届出を出していないと
されるのであれば、遡って法人税や所得税
についても無償返還の届出を出していないとされ
借地権の課税が行われるのではないか、
といった質問も受けます。

この点、税金には申告期限から原則5年
という時効があるため、原則問題になりません。

と言いますのも、法人税や所得税の場合、
借地権はその借地権を設定する契約時に課税
されることとされているため、契約した年度の
申告期限から、原則として5年経過していれば
遡及して課税されるようなことはありません。