黄金株と退職の実態
おはようございます!
税理士の松嶋と申します。
本メルマガは、皆様が怖い怖い
とおっしゃる税務調査に対し、
勇気をもって戦えるノウハウを
解説しております。
私のパートは【毎週木曜日】です。
税務調査について分かりやすく
解説していきます。
それでは、第三百五十七回目。
テーマは、
「黄金株と退職の実態」
です。
税務上、問題になる経費に
役員退職金があります。
役員退職金は、かなり大きな支出が
認められますが、それを受ける役員の所得税の
節税になるだけでなく、支給法人の法人税の
節税にもつながりますので、実務では非常に
重要になります。
しかし、役員退職金の金額が高すぎる場合と、
役員に退職の実態がない場合には、
その経費性が否認されます。
紙面の都合上、役員退職金の金額の問題は
解説しません。一方の役員の退職の
実態については近年、「黄金株」が問題になります。
黄金株とは拒否権付株式ともいい、
所定の株主総会の決議などに対し、
拒否する権限を有する株式をいいます。
決議を否決しうる権限がある訳ですから、
例えば創業者が後継者に事業を引き継ぐ際、
後継者の経営判断を監督したいという場合に
黄金株は相性がいいと言われており、
事業承継でよく使われます。
このように、黄金株は非常に大きな権限を
持つため、退職する役員が黄金株を
持っている場合、その役員は退職の実態が
ないと判断される可能性があると言われます。
なぜなら、株主総会の決議に対して拒否が
できるとすれば、黄金株を持っている役員は
経営判断をしているという解釈は十分に
可能であり、経営判断は役員の仕事ですから、
黄金株を持っているだけでその役員は
退職していない、と判断することができるからです。
この点、実際の否認事例などは
耳にしていませんので、実務における具体的な
取扱いは不明ですが、リスクヘッジとして
一つ押さえておきたい判例があります。
この判例は、株式保有割合が大きい
株主である元役員に、退職の実態が
あるかが問われたものですが、
国税の課税処分が取り消されています。
国税は、その元役員は株式の保有割合が
大きいため、会社の決議事項に大きな影響を
与えることができることから、退職の実態は
ないと主張しました。しかし、裁判所は、
株主と役員は似て非なるものなので、
株式の保有割合が大きいことと、役員に
退職の実態があるかどうかの判断は、直接
関係ないとしています。
この判例の理屈からすれば、黄金株を
持っているため、会社の経営判断に影響を
及ぼすことができるとはいえ、それは
株主としての立場ですから、役員の仕事とは
直接関係なく、退職の実態の有無に
ついても関係ないと結論付けられます。
しかし、この判例の建前と矛盾する学説や
解説書も多く見られますので、この判例が
確実な根拠とまでは言えません。
このため、確実を期すのであれば、
黄金株を処分して役員退職金を支給するべきでしょう。
しかし、黄金株という制度ができて
10年以上たつのに、未だに黄金株と退職の
実態の判断について正確な見解を
国税が出さないことは大きな問題です。
事業承継の有効なツールである黄金株を
阻害しないよう、早めに国税は見解を出すべきでしょう。