Column/コラム

M&A仲介会社元役員の脱税事件

M&A仲介会社元役員の脱税事件

おはようございます!
税理士の松嶋と申します。

本メルマガは、皆様が怖い怖い
とおっしゃる税務調査に対し、
勇気をもって戦えるノウハウを
解説しております。

私のパートは【毎週木曜日】です。

税務調査について分かりやすく
解説していきます。

それでは、第四百四十四回目。

テーマは、

「M&A仲介会社元役員の脱税事件」

です。

大きな話題になった脱税ニュースですが、去る20
22年8月、上場企業であるM&A仲介大手の元役
員の脱税事件がありました。

この事例、ストックオプションで購入したこの上場
企業の株式の譲渡益について、7億円超を申告せず、
所得税を約1億1千万脱税したとして税務当局から
告発されたのです。

この元役員は、「税務当局の調査があるはずなので追
加で納税すればよい、という軽い気持ち」で申告し
なかったと言ったと言われています。

上場企業の元役員で、かつM&Aという税務とは切
っても切れない業務に従事し、顧客から多額の報酬
を得ておきながら、そのコンプライアンス意識の乏
しさに驚かされます。

後日追加で納付すればお咎めなし、という発言から
思い出されるのは、「取り敢えずの期限内申告」とい
うとある税務調査の専門家が税理士に薦めていた違
法な申告です。

この取り敢えずの期限内申告は資料などを顧客から
得られず、正しい期限内申告が困難な場合、計算は
適当でも期限内に申告することです。

その後で、資料を集めた後早期に正しい数字を固め
て修正申告することで、期限後申告に対するペナル
ティーである無申告加算税を逃れるのがこの申告。

正しい数字で期限内に申告することは法律以前の税
務の常識なので取り敢えずの期限内申告は純然たる
違法行為です。

しかし、適当な申告でも後日それを直せばお咎めは
ないと考える安直さにつき、本件の脱税事件と共通
する部分があります。

なお、取り敢えずの期限内申告は無申告加算税を逃
れられても税理士法違反は逃れられません。

この点においても、後日申告をしているのに、脱税
事件として告発され、罪を逃れることができていな
い本件と大きな違いはありません。

加えて、この事件が悪質なのは、申告が漏れている
株式の譲渡所得に対する税率が、20.315%と
非常に優遇されていることです。

富裕層の節税の王道は、シンガポールなどの低い税
率の国に住所を移して非居住者になり、自分が社長
を務める日本の会社からもらう給与の税率を下げる
というものです。

この場合でもその税率は20.42%です。本件の
元役員は、国外転出による節税後の税率と大差もな
い税率である株式の譲渡所得税を申告しなかった訳
で、まさに意図的に申告しなかったと言わざるを得
ません。

少し脱線しますが、この元役員の方が所属していた
M&A仲介大手ですが、不適切な会計処理で問題に
なったことがあるようです。

M&Aは非常に高度な会計税務の知識が必要になる
とともに、大きなお金も動くものですから、会計税
務に携わるものにとっては、花形と言える業務です。

しかし、実務においては、このような不祥事が生じ
ている訳で、法令順守よりも目先の報酬が重視され
る業務に成り下がってしまったのかもしれません。

M&Aの税制は、日本でM&Aを活性化させて日本
経済を成長させるために作られた、と聞いたことが
あります。

会計税務の専門家にとっては、この理念に立ち返り、
再度緊張感をもってM&Aの実務に臨む必要がある
と考えられます。