Column/コラム

退職代行サービスへの対応と留意点 ~突然の退職申し出にどう備えるか~

退職代行サービスへの対応と留意点 ~突然の退職申し出にどう備えるか~

退職代行サービスへの対応と留意点 ~突然の退職申し出にどう備えるか~

おはようございます。

セブンセンス社会保険労務士事務所の那須です。


今週も労務に関する最新情報、お役立ち情報、事業主の皆様への注意点をお届けします。


今回は、近年利用が急増している「退職代行サービス」について、従業員からの申し出があった場合の企業として取るべき対応と留意点を解説します。


1.「退職代行」を利用した退職の現状

近年「退職代行」という言葉が広まり、サービス提供業者が急増し、民間調査では、2024年上半期に退職代行サービスを利用した従業員がいた企業は7.2%にも上っているそうです。

皆さまも、もし突然、退職代行業者から連絡が来た場合、「どう対応すればよいか」という悩みを抱いてしまうのではないでしょうか。


2.退職代行サービスの3つの類型と対応のポイント

退職代行サービスを提供する者には、主に以下の3つの類型があり、それぞれで対応が異なります。

まずは、どの類型に該当するかを確認することが重要です。


①弁護士 / 弁護士法人:

本人の代理人として活動するため、弁護士法上の問題は生じません。

残業代請求なども含めて、交渉が可能です。


②退職代行ユニオン(合同労組):

労働組合法上の「労働組合」としての要件を満たしている場合、団体交渉権を持ちます。

退職(業務引き継ぎ、貸与物返還なども含む)は義務的団交事項にあたるため、企業は団体交渉に応じる義務が生じます。


③民間の退職代行業者:弁護士でも労働組合でもないため、原則として、残業代や退職条件に関する交渉はできません (弁護士法72条に抵触する非弁行為となるため )。

ただし、退職の意思表示を伝える行為については、本人から依頼された「使者」(伝達役)として行うことが法的に認められるとの解釈が可能です。

企業は、交渉の要求は明確に拒否し、本人から連絡するように伝えるべきです。

一方、使者からの退職の意思表示自体は有効に受け取らざるを得ないという側面があることに留意が必要です。


3.企業が取るべき実務的な対応(民間の退職代行業者からの連絡の場合)

退職代行業者からの連絡の場合、以下の点に留意して対応しましょう。


・本人の退職意思の確認


第三者によるいたずらや詐欺の可能性、また代行業者に真の意思を伝える「使者」としての権限があるかを確認する必要があります。

代行業者から「本人に直接連絡しないように」と要請されても、それに従う必要はありません。

とは言え、実際は本人の意思表示の確認として、代行業者に対して本人が作成した退職届など、依頼の裏付けとなる資料の提出を求めることが現実的です。

意思が確認できない場合は、退職の意思表示はなかったものとして扱い、出社しない場合は無断欠勤としてとして取り扱い懲戒処分などの対応となるでしょう。


・出社命令と業務引継ぎの取り扱い

退職の意思表示から退職日までの間、企業は原則として、従業員に対して出社を命じる権利を有します。


しかし、実際には出社を強制することは困難です。また、業務引継ぎは労働者の信義則上の義務ですが、引継ぎが完了しなくても、退職の意思表示から2週間が経過すれば、退職の効力は発生します(民法627条)。


仮に就業規則に規定したとしても引継ぎの不備や出社拒否のみをもって懲戒解雇とすることは、解雇権の濫用として無効となる可能性が極めて高いため、退職金などへの影響を検討するに留めるのが現実的な対応です。


・年次有給休暇の申請


代行業者が「使者」として有給休暇の取得の希望を伝達することは可能です。


有給休暇の取得は労働者の権利であり、有給休暇が退職の予告期間である2週間以上ある場合は、企業は時季変更権を行使することはできません。


したがって無断欠勤とすることもできず退職となってしまうのが実態となります。


退職代行への対応は、上記以外にも法的な側面を理解し、受け入れるべき点と拒否すべき点を冷静に判断し行うことが不可欠です。


ご不明な点や具体的な対応についてのご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。