Column/コラム

検索性による効率の差『ペーパーレスの壁』第3回
2025.05.16
ペーパーレス

検索性による効率の差『ペーパーレスの壁』第3回

検索性による効率の差『ペーパーレスの壁』第3回

会計事務所にとって、業務の効率化は常に大きなテーマ。その中でも「ペーパーレス化」は、多くの事務所が取り組みたいと考えている施策のひとつです。前回のコラムでは、資料の前捌きに焦点を当て、セブンセンスグループが進めるペーパーレス化の背景をご紹介しました。では実際のところ、ペーパーレス化を進めると、業務の効率はどれだけ改善されるのでしょうか?

一口に「効率化」といっても、その影響は書類の作成、保管、移動、確認、受け渡しなど、業務のあらゆる場面に及びます。だからこそ、その効果を正確に数値で捉えるのはなかなか難しいのが実情です。

しかし、視点を絞ることで「部分的な検証」を行い、全体の改善の見込みをある程度予測することは可能です。そこで今回は、紙資料と電子資料とで大きな違いが出やすい“検索性”というテーマにフォーカスしてみようと思います。実際に、紙資料と電子資料それぞれを検索する実験を行い、その結果から見えてきたペーパーレス化の効果をお伝えします。

🔍会計事務所ペーパーストックレスDXスキャン資料管理
…これらのワードに「おっ‼👀」となった方、必ず最後までご覧ください!!!

「検索性」の違いがもたらす業務効率の差

これまでのコラムでもご紹介してきた通り、セブンセンスでは顧問先から預かった月次資料のほぼすべてをスキャンし、電子化したうえで保存しています。

電子化された月次資料は、事務所内のファイルサーバにある顧問先ごとのフォルダ(以降、顧問先フォルダ)に、厳格なルールで格納されます。ファイル名の命名規則や保存場所が明確に定められているため、必要な資料があればすぐに目的の顧問先フォルダにアクセスし、該当データを取り出すことができます。検索性の高さがそのまま業務のスピードに直結しているわけです。

システムで顧問先を検索し、当該顧問先フォルダにアクセスできる

一方、一般的な会計事務所では、顧問先から預かった資料を紙のまま保管し、棚や書庫で管理しているケースが多く見受けられます。この場合、資料が必要になるたびに保管場所まで足を運び、目当ての書類を探すという作業が発生します。これは一見すると些細な業務に思えるかもしれませんが、日常的に繰り返されることで、蓄積される工数は無視できないものになります。

こうした作業の所要時間は「毎回わずか数分」といったものであるため、実務の中で正確に計測するのは困難です。しかし、セブンセンスでは社内のすべてのPC操作ログを取得しているため、それらのデータを活用することで、ある程度客観的に検証することが可能です。

社内のPCログをもとに、税務の入力を行う職員1人が1日に顧問先フォルダへアクセスする平均回数を算出したところ、1人あたりのアクセス回数はおよそ7.9回にのぼることがわかりました。
ここに、紙の場合と電子資料の場合の検索にかかる1回当たりの工数(時間)の差を掛けることで、1日あたりの検索効率を求めることができます。

実験結果から見えた効率性の差

では、紙資料と電子資料では、検索にかかる時間にどれだけの違いがあるのでしょうか。その差を具体的に把握するため、私たちは次のような条件で実験を行いました。

🔍実験条件

  • 方法: 任意の顧問先3件に対して、紙と電子の両方で同じ資料を用意し、検索にかかる時間を比較
  • 紙資料検索の条件:
    • 席から書庫まで移動し、目的の資料が入っているはずの資料束を探して席に戻る
    • 席で目的の資料をさがし、当該資料が見つかったら、資料の返却まで行う
    • 物理的な距離は下記の通り
      • 席から書庫までの距離:約5m
      • 書庫内での移動距離:約1.5m
書庫までの距離
  • 電子資料検索の条件:
    • 顧問先フォルダから当該資料のファイルを開くまでの時間を計測

実際に行った資料検索の実験において、紙資料と電子資料では、下記のような時間差が確認できました。

📝実験結果

  • A社の資料:預金通帳コピー
     紙資料にかかった時間:1分47秒
     電子資料にかかった時間:23秒
  • B社の資料:現金出納帳
     紙資料にかかった時間:1分32秒
     電子資料にかかった時間:34秒
  • C社の資料:預金通帳コピー
     紙資料にかかった時間:1分34秒
     電子資料にかかった時間:30秒
  • 3社の平均時間
     紙資料にかかった時間:1分38秒
     電子資料にかかった時間:29秒 👑

なお、3社とも、紙資料を書庫から持ってくる時間返却する時間は下記の通りほぼ同様でした。

  • 書庫から持ってくるまでの時間:約35秒
  • 書庫に返却するまでの時間:約30秒

今回の実験結果から、電子資料と紙資料とでは、1件あたりおよそ1分強の時間差が生じることが明らかになりました。顧問先フォルダへのアクセスが1日あたり平均7.9回であることを踏まえると、1日あたり約9分程度の差が生まれる計算になります。

一見すると「たった9分程度」と感じられるかもしれませんが、ここで注意すべきは、今回の実験における紙資料の条件がかなり良好だったという点です。

たとえば――

  • 席から書庫までの距離: 約5m(非常に短い)
  • 書庫の広さ: 移動距離は約1.5m(探す範囲が限定的)
  • 資料の量: 顧問先1件につき1~2か月分のストックのみ
  • 保管の状態: あらかじめ整理された状態で保管されている
セブンセンスの書庫の様子。処理完了後の返却が原則のため、9割以上の顧問先でクリアバッグ1つに収められている。

このように、紙資料を探す条件としては「整っていた」と言える環境下での実験でした。しかし、現実の業務においては必ずしもこうした理想的な状況ばかりとは限りません。

たとえば、資料が長期間分まとめて保管されていたり、保管が雑だったり、書庫が広くて目的の棚を探すのに時間がかかったりといったケースも珍しくありません。仮に、紙資料の検索に平均で3分30秒程度かかると想定した場合、電子資料との差は1件あたり3分。1日あたりでは20分以上の差となり、1か月では7~8時間程度の差にもなります。これは見過ごせるレベルではありません。

さらに、電子資料であれば顧問先ごとの検索時間に大きなばらつきはありませんが、紙資料は前述のような物理的条件や管理状況によって、ケースごとの時間差が大きくなることも予想されます。つまり、紙資料には「読めないムダ」が潜んでおり、それが業務効率を不安定にさせる要因となっているのです。

加えて、今回の検証ではたった1つの資料を検索する時間にかかった時間のみを計測しています。 手元に資料束があったとしても、実際の入力では一日に数十~数百枚もの資料を検索する必要があるはずで、その際にかかる時間はかなりの差があるはずです。

業務の安定性と効率性を高めるために

今回の実験を通じて明らかになったのは、紙資料と電子資料では、検索にかかる時間に明確な差があるということです。ただし、1回あたりの差は小さいため、業務の中ではその影響が見逃されがちです。

しかし、その“わずかな差”が1日、1週間、1か月、そして1年と積み重なることで、全体の業務効率に大きな影響を及ぼすことになります。さらに、紙資料の場合は環境や管理状況によって所要時間が大きく変動する可能性があり、業務の安定性を欠く要因にもなり得ます。

一方、電子資料であれば、検索にかかる時間は常に一定で、業務の標準化・平準化を図るうえでも有効です。検索性の高さは、業務効率だけでなく、職場の生産性と働きやすさを底上げする要素でもあります。

ペーパーレス化は、単に紙を減らすための取り組みではありません。業務のムダを見える化し、日々の積み重ねを最適化するための第一歩です。今後の業務改善を考えるうえで、見逃されがちな“検索の効率”という視点に、あらためて注目してみてはいかがでしょうか。