電子帳簿保存が進まない理由
おはようございます!
税理士の松嶋と申します。
本メルマガは、皆様が怖い怖い
とおっしゃる税務調査に対し、
勇気をもって戦えるノウハウを
解説しております。
私のパートは【毎週木曜日】です。
税務調査について分かりやすく
解説していきます。
それでは、第四百二十三回目。
テーマは、
「電子帳簿保存が進まない理由」
です。
猶予措置はあるものの、いよいよスタートする電子
取引のデータ保存の義務化ですが、前代未聞の対応
で、かつすべての納税者に関係することもあって、
著名人なども取り上げる大きなニュースとなってい
ます。
そのコメントの中で、日本企業の生産性などを踏ま
えれば、電子帳簿保存の義務化は当然なのに、日本
は紙神話が強いことから一向に進まないため、適用
が延長されたり猶予措置が設けられたりした、とい
った解説もありました。
日本企業に現状も紙神話があることも否定しません
が、そもそもの問題点は、メーラーやアマゾンなど
のサイト、そしてダウンロードした自社のパソコン
に請求書や領収書が保存されており、それで取引内
容は十分に分かるにもかかわらず、電子帳簿保存制
度においては、それだけでは経理資料を保存したこ
とにならない、とされていることにあります。
具体的には、検索できるように保存したり、データ
の改竄がなされないようにタイムスタンプを付した
りする必要がある訳で、本来1円のコストも発生し
ないはずの電子取引のデータの保存に対し、膨大な
手間とコストが発生する現実があります。
こういう訳で、紙神話の考え方を変えるよりも、ま
ずやるべきは電子取引のデータの保存要件を緩和す
ることでしょう。
この要件緩和ができない理由として、よく言われる
のは税務の立証責任です。
税務は収入だけでなく経費についても、原則として
税務当局に立証責任があるとされています。このた
め、納税者が申告した経費についても、それが経費
にならないことを税務署は税務調査で示す必要があ
ります。
となった場合、納税者が経費を裏付ける領収書など
を改竄すると、立証が難しくなって税務当局が困り
ますから、電子取引で取得する電子データの保存に
ついても、厳しい要件を課しているのです。
このような背景を踏まえれば、本来は立証責任とい
う問題から議論していかないと、納税者にとって使
いやすい電子帳簿保存制度はできない訳です。
仮に、納税者が経費について立証するとすれば、税
務当局としては手間がかからないので、電子データ
の保存の要件を緩くしても問題ないはずです。
もちろん、負担が増える納税者としては反発すると
考えられますので、その負担と電子保存のメリット
を比較し、数年かけて議論していかなければなりま
せん。
こういう訳で、電子帳簿保存制度という限られた問
題ではなく、立証責任という税の根幹から変えてい
くべき問題なのですが、こと今回の電子取引のデー
タ保存の義務化については、このような突っ込んだ
議論がなされた痕跡はありません。
税務雑誌などで税務当局の担当者の解説を読むと、
接触を避けるためのコロナ対策の一環で制度を作っ
た、といった指摘もありましたが、どんな例外も認
められるような、コロナ対策という名目で片付けら
れる問題ではありません。