Column/コラム

会計不正の手法 “原価付替え”

会計不正の手法 “原価付替え”

会計不正の手法 “原価付替え”

おはようございます。

金曜日を担当していますセブンセンスグルー
プ(SSG)公認会計士の髙橋です。

金曜担当の私からは、会計・財務、税務、監
査、内部統制関連の基礎・Tips等をお伝えし
ます。

116回目の今回は会計不正の1つである原価の
付け替えについてお伝えします。

原価の付替えとは、同じ企業内で、ある工事
や部門等のセクションから別のセクションへ
原価を不正に振り替えることなのですが、

これが会計不正である、と聞いてピンと来る
でしょうか?

正直な話、私も新人の頃はあまりピンときま
せんでした。

ピンと来なかった理由は、同じ会社内での費
用の移動なのだから、トータルでの利益は変
わらないので大した問題ではないのでは?

と思っていたからです。

この理解は半分は正解で半分は不正解です。

まず、正解である部分は会社のトータルの利
益は一義的には変わらない場合が多いという
点です。

すなわち、会社内部でのセクション間の費用
の移動(例えばA工場の費用を5億円減らし、
B工場の費用を5億円増やす)なので、

トータルでは利益の額は当然変わりません。

では、以下のような場合はどうなるでしょう
か?

現状のA工場の工場単位での利益が3億円の赤
字ででB工場の利益が10億円だった場合です。

このような場合に同様の原価の付け替えを行
うことにより、A工場は2億円の利益となり、
B工場の利益は5億円減る事となります。

A工場とB工場の利益は原価の付け替え前も後
も一義的には7億円で変わりません。

ここで”一義的には”と敢えて付け加えたのに
は理由があります。

そもそもA工場は利益が発生しておらず3億円
の赤字でした。

その場合、企業会計上そのままにすることは
出来ません。

現状、利益を生んでいない工場であるため、
今後の将来キャッシュフローがどの程度見込
めるかを見積り、

今後も赤字が続く場合にはA工場の建物や機
械設備等の有形固定資産を減損処理する必要
があります。

例えば、減損処理として追加で2億円の損失
を計上する必要が出てくれば、両工場の利益
は7億円ではなく5億円へと減ることとなりま
す。

このように、原価の付け替えは、企業内部で
の単なる費用の移動のみならず、

企業全体の利益を操作する会計不正へと繋が
る可能性があるのです。

このような不正は、上記の減損損失回避のた
めに企業のトップが主導して行われることも
あれば、

建設業等で、複数の現場を担当する責任者が、
自分の担当の中の赤字工事を無くすために、

赤字工事から黒字工事へ費用を付け替えるこ
とも考えられます。

赤字工事には工事損失引当金(繰入)として
費用の追加計上が必要となる場合もあります。

このように、原価の付け替えは単なる企業内
部での費用の移動と片づけらるものではない
のですが、

企業内部での費用の移動は企業内部の資料に
より移動することも出来てしまうため、不正
の手口として多々利用されてしまうものとな
っています。