Column/コラム

未払役員報酬と源泉徴収義務

未払役員報酬と源泉徴収義務

未払役員報酬と源泉徴収義務

おはようございます!
税理士の松嶋と申します。

本メルマガは、皆様が怖い怖い
とおっしゃる税務調査に対し、
勇気をもって戦えるノウハウを
解説しております。

私のパートは【毎週木曜日】です。

税務調査について分かりやすく
解説していきます。

それでは、第三百四十八回目。

テーマは、

「未払役員報酬と源泉徴収義務」

です。

資金繰りなどの都合上、役員報酬を
未払にすることは多いですが、
ここで押さえておくべきは

未払にした役員報酬については、
「未払金」としたままとし、
それを「役員借入金」として経理しない

ことです。

この理由は、このような経理を行うと、
源泉徴収のリスクが発生するからです。

給与などから天引きされる所得税の
源泉徴収義務は、その所得税の対象になる
所得の「支払」の時に発生することと
されています。

このため、実際に支払いがなされなければ
所得税の天引きもできませんから、
支払を受ける権利が確定しても、
実際に支払いが行われるまでは、源泉所得税を
納税する義務はありません。

すなわち、毎月の役員報酬が未払であれば、
源泉所得税を納める義務はありません。

実務では、支払のタイミングを把握するのが
煩雑ということもあり、未払でも源泉所得税を
計算して納税することが多くありますが、
法の建前としては、源泉所得税の
納税義務は実際に支払われない限り、
ないのです。

ここで押さえておきたいことは、
「支払」の意義です。
支払というと現金で支払う
ことをイメージしますが、源泉徴収義務の
判断については、現金で支払う場合に
限定されません。

極端な例ですが、現金に代えて土地や
有価証券などの現物を支給するようなケースも、
この「支払」に当たるとされています。

専門的な話ですが、源泉徴収義務が発生する
「支払」とは、支払うべき給与などの
所得についての債務が消滅することを
意味するとされています。

現物支給でも債務は消えますから、
この「支払」に該当するのです。

冒頭に話を戻しますが、未払の役員報酬を
「未払金」から「役員借入金」に経理しなおす、
ということは、役員報酬を支払う債務が消滅し、
その債務に代えて役員から別途会社が
借金をした、という取扱いになります。

こうなると、役員から借金をして役員報酬を
支払ったことと同じと判断されますので、未払
の場合には発生しない源泉徴収義務が、
この経理を行ったタイミングで
発生することになるのです。

困ったことに、役員報酬は資金繰りに関係なく
原則として毎月同額でなければなりませんから、
未払の役員報酬は大きな金額になることが
多くあります。

加えて、資金繰りに難があることが多い
中小企業については、役員から
お金を借りることも多いため、決算書に
役員借入金が計上されることが通例です。

未払の役員報酬も役員借入金も、会社にとっては
役員に対する負債ですので、一つにまとめて
しまうことが実務ではよくあります。しかし、
上記のようなリスクもある訳ですから、
再度処理を見直す必要があるでしょう。