資金繰りと月末勘定残高の関係性

資金繰りと月末勘定残高には一定の連動関係があります。材料の仕入れを行えば棚卸資産勘定が増加し、反対勘定の買掛金・支払手形が同時に増加、あるいは現金勘定の減少(現金仕入れの場合)となります。売上がなされれば棚卸資産の減少・現金・売掛金・受取手形の増加につながります。

ここでは、最初に勘定科目同士のバランスについて説明します。

売上債権対買入債務比率

売上債権対買入債務比率

この比率は、流動比率と同一に考えることが出来ます。この比率が100%以下であれば、売上債権の資金化により支払債務の期日決済を賄うことが可能ということが言えます。

〈この比率の二律背反性〉一方、この比率を資金繰りのみの観点で捉えると売上債権は資金の運用であり、売上債権が多額であることは資金が滞留していることを意味し、資金繰り上は好ましくありません。また、買入債務は有力な資金の調達源泉であり、買入債務が多いことは資金繰りを良化させることにつながると同時にその支払いに追われるという二律背反性があります。

そのため、当該比率の水準はどの程度が望ましいのかという点を以下検討していきます。

回収と支払いのバランスを確認する

回収と支払いのバランスを確認

上記の回収と支払いの期間にバランスが保たれていることが望ましいと言えます。例えば、回収期間を3ヵ月とした場合に、支払期間も3ヵ月であれば回収代金により支払いが賄われることになりバランスが保たれていると言えます。

売上債権対買入債務比率の水準を確認する

次に、売上高の回収手段である売上債権には粗利益が含まれており、買入債務は売上に見合った商品・原材料等の仕入分に該当します。すなわち売上高を1とした場合、買入債務は卸小売業にあっては「売上原価率」、製造業にあっては、「売上高対原材料比率」の割合と近似することになります。以上の点より、売上原価率が70%の場合に回収と支払いの期間のバランスを保つ売上債権対買入債務比率は、

売上債権対買入債務比率の水準

が妥当な水準であると言えることになります。したがって、当該企業の売上原価率・売上高対原材料費率から売上債権対買入債務比率を算出し、これとの比較を各月ごとに実施することによりバランスを確認することが出来ます。

判断の視点

算出された妥当な水準と比較して、

高い場合

1 支払能力が高い可能性。
2 不利な取引をしている(回収が遅く支払いが早い取引条件である)可能性。
3 資金繰りを圧迫する可能性。

異常に高い場合

1 回収の遅れ(不良債権の発生)の可能性。
2 無理な押し込み販売の可能性。

低い場合

1 支払能力が乏しい可能性。
2 有利な取引をしている可能性。
3 資金繰りが良好である可能性。

異常に低い場合

1 支払能力が限界である可能性。
2 資金繰り遍迫している可能性。

比率の水準が安定的に継続しておらず、上記のような兆候がある場合には、実態を調査分析する必要があるでしょう。

買入債務対棚卸資産比率

買入債務対棚卸資産比率

この比率は、棚卸資産に対し買入債務がどの程度あるかを見る比率です。商品・原材料等の仕入を行った場合、現金仕入が無ければ貸借対照表上は、棚卸資産の増加=買入債務の増加となります。両者の残高ベースでは「買入債務残高=月平均仕入高×支払期間、棚卸資産=月平均仕入高×適正在庫期間」となります。

企業の適正在庫の把握の方法

過大な棚卸資産(在庫)の保有は資金の固定化につながります。一方で棚卸資産が過少であれば機会損失が発生することになります。したがって、企業はその調達力(仕入)・販売力等により常に適正な在庫を保てるように在庫管理を行っています。

それでは、企業の適正在庫水準をどのように把握するかの問題が生じますが、それには以下のような方法があります。

1 過去の数期間(3~5期)の棚卸資産の回転期間を算出する。

回転期間を算出

2 同業種の経営指標から業界平均の棚卸期間を調べる。

支払期間、及び適正在庫期間は業種・回収・支払条件等から企業ごとに相違するものであるため、企業の適正水準を算出し、比較検討が必要となります。

適正在庫期間・適正棚卸資産の計算

判断の視点

適正水準に比較して、

高い場合

1支払条件の長期化が進んでいる可能性
2在庫管理が行き届いている可能性。
3資金繰りが良好である可能性。

著しく高い場合

1支払いの停滞の可能性。
2支払能力が限界の可能性。
3融通手形が含まれている可能性。

低い場合

1支払いの早期化を迫られている可能性。
2在庫管理が杜撰である(過剰在庫)可能性。
3資金繰りが圧迫されている可能性。

著しく低い場合

1粉飾決算の可能性。

一定水準が安定的に継続されておらず、上記のような兆候がある場合には、実態を調査・分析する必要があります。

ポイント

月末残高の比率には、売上債権対買入債務比率、買入債務対棚卸資産比率があり、特に買入債務と連動した棚卸資産との割合を見る買入債務対棚卸資産比率は、粉飾決算を見破る有力な手掛かりとなります。粉飾決算(利益の過大計上)の方法は、通常、損益計算書(P/L)面では売上の過大計上、貸借対照表(B/S)面では売上債権・棚卸資産の過大計上(特に棚卸資産は、外部者がその金額が適正かどうかの判断が容易でなく、粉飾操作の対象になりやすい)として操作されることが多いと言えます。

そのため、粉飾決算を見抜く手法としては、買入債務と連動した棚卸資産との割合を確認する
「買入債務対棚卸資産比率」が有効な手法となります。